Lush Prize 2014の受賞者
Lush Prize 2014では、5大陸10カ国から12名の受賞者が選ばれました。
Lobbying Prize
動物実験代替法の利用を促進する政策介入
受賞者:Center for Alternatives to Animal Testing(ドイツ)
http://cms.uni-konstanz.de/leist/caat-europe/
ドイツのコンスタンツ大学に設置されたCenter for Alternatives to Animal Testing(CAAT-Europe)は、動物実験代替法の必要性を訴えるために産業界の代表者、規制機関、研究者に働きかけをしています。
CAATは、情報の共有、会議やワークショップの開催を通して、安全性試験における代替法の開発と普及を促進しています。200名以上の共同執筆者と共に、査読付きの専門誌に公表した文献は30以上に及びます。CAAT-Europeは、米国メリーランド州ボルチモアのジョンズ・ホプキンス大学にあるCAATのヨーロッパ支部として2010年に設立されました。CAATの2つの機関が協働し、ヨーロッパとアメリカの科学者と規制機関を結ぶ大西洋横断の懸け橋となっています。
アメリカで33年の歴史を持つCAATの25名のスタッフと高度な研究所は、米国食品医薬局や米国環境保護庁などのアメリカの規制機関や他の政府機関とも協力しています。CAATは2006年以来ワシントンで、また2012年以来ブリュッセルで政策プログラムを作り、専門知識を政策決定者に提供しています。CAAT-Europeのビジョンは、研究、実験、教育における「3Rの原則」の実施と開発を牽引することです。
「3Rの原則」とは、動物実験の削減、実験動物の苦痛の軽減、そして生きた動物を使わない方法への代替を表します。目標は、人間の健康と動物の幸福の両方を守ることです。
受賞者:New Zealand Anti-Vivisection Society(ニュージーランド)
www.nzavs.org.nz
New Zealand Anti-Vivisection Society(NZAVS)は、動物実験に反対するキャンペーン団体です。動物実験を廃止するために研究、教育プログラム、世論喚起、ロビー活動を行っています。主要なキャンペーンと同様に、その他の全国的な一般消費者の啓蒙(けいもう)活動にも取り組んできました。
また、合法ドラッグの動物実験を求める提案を公表し、全ての動物実験が法律で禁止されるまでキャンペーンを行いました。ニュージーランドの至るところで情報の共有に努め、雑誌や新聞広告を介した情報提供、全国各地でのポスターの掲示、事実を否定していた企業による動物実験の摘発、国会議員や国内の他の動物保護運動組織および多くの一般市民への動物実験問題に関する情報提供、アドバイス、リサーチ等がその例です。
2013年に新しいウェブサイトを設けて以来、会員と支援者に最新の情報を提供し、ニュージーランドでの動物実験に関する情報源であり続けています。過去18カ月以上の活動の主な焦点は、現在の法律で認められている合法ドラッグの動物実験案を止めさせることでした。
本賞は、代表してステファン・マンソン氏に贈られました。
Public Awareness Prize
動物実験が実施されている背景や実情を社会に知らせ、世論を喚起する
受賞者:Taiwan Society for the Prevention of Cruelty to Animals (台湾)
www.spca.org.tw
化粧品の動物実験についての問題は、台湾の一般消費者にはあまり知られていません。Taiwan Society for the Prevention of Cruelty to Animals(TSPCA)によるBe Cruelty-Freeキャンペーンは、2014年3月に開始し、この問題に関する一般の認知向上に努めると共に法的禁止を推し進めました。
キャンペーン開始を発表するために、TSPCAは台北で「バニー・ストリートチーム」を展開し、チラシや無料のニンジンを配り、化粧品動物実験の残酷さと、なぜ法律による禁止が不可欠なのかというメッセージを発信しました。TSPCAのウェブサイトには、買い物ガイドを含む教育セクションが設けられ、6月には記者会見を開き、台湾での化粧品の動物実験を終わらせる新法案を起草する目的で、国会議員のワン・ユー・ミン氏と協働することを発表しました。ワン氏は、化粧品業界に関連する法案解釈を担当する政府委員会のメンバーです。
他にも2名の市長、スーパーモデルのパティナ・リン氏の他、ブロガーが出席し、ラッシュとスパリチュアルが共催しました。今後TSPCAは、台湾での動物愛護の考えの促進、虐待行為の防止、苦しみの軽減を法的に行うことを目標とし、教育、キャンペーン、ロビー活動、虐待の調査、里親探しを通して、この目標を達成しようとしています。
本賞は、代表してベキ・ハント氏とコニー・チャン氏に贈られました。
受賞者:Human Research Australia(オーストラリア)
www.humaneresearch.org.au
Humane Research Australiaは、動物を使った研究に疑問を呈し、より人道的で動物を用いない科学的根拠のある研究を促進する非営利団体です。
最近の活動では、「Leo Escapes from the Lab」という真実に基づく子ども向けの絵本を出版しました。レオは、元は実験用の猫で、今では毎年実験に使われる何百万匹の動物の大使のように活躍しています。レオは今や「セレブ猫」になりソーシャルメディアで情報を発信し、日々、レオの熱狂的なファンが増えています。この本のためにデザインされたイラストは、レオ、親友のアルフィー、お兄さんのロッキー、そしてレオが旅路で出会った人間のキャラクターの特徴を忠実に捉えています。
レオの物語が子どもたちに動物実験がいかに間違っているか理解を提供し、未来の研究者、寄付者、フィランソロピストに影響を与えてくれることを望んでいます。また、ヒューメイン・ソサイエティー・インターナショナルのBe Cruelty-Freeキャンペーンと提携し、緑の党からの支援を増やしました。緑の党は化粧品のための動物実験の禁止を求める法案を発表し、労働党は公開討論を行いました。ヒューメイン・ソサイエティー・インターナショナルは、オーストラリアでの残酷で不必要な行為は間もなく禁止されるだろうと確信しています。
本賞は、代表してヘレン・マーストン氏に贈られました。
Science Prize
21世紀の毒物学
受賞者:カロリンスカ研究所 ローランド・グラファストローム教授、ペッカ・コホネン博士(スウェーデン)
http://ki.se/en/imm/startpage
カロリンスカ研究所 (KI)は、スウェーデンで最も大きな医学教育と研究のための機関で、ノーベル賞の医学生理学賞の選考を担当しています。
KIは、22の部署と600の研究グループから構成され、調査と高等教育を通して人間の健康改善のために尽力しています。グラファストローム教授の研究室は、環境医学研究所にあり、KIで最大規模の研究室の1つで、研究により癌(がん)生物学と21世紀の毒物学を発達させました。21世紀の毒物学は、動物を使った毒性試験に代わる毒物にさらされたヒト細胞培養をデータ分析する手法の開発を目指しています。
In-vitroとコンピューターによる解析の組み合わせが、何十年にも渡りグラファストローム教授の研究室が注力してきたことであり、近年、この研究はペッカ・コホネン博士との共同研究に広げられました。高度な細胞培養モデルの豊富なデータ分析で毒性試験の反復投与を代替することを目指し、ヨーロッパ全域で実施されているSEURAT-1プロジェクト(動物試験を最終的に置き換えた安全性評価)の1つです。コホネン博士とグラファストローム教授の共同チームは、「オミクス」と呼ばれるデータの活用、分析、解明、保管を担当しています。
「オミクス」は、SEURAT-1の中で、サービスに力を入れたプロジェクトで作られた科学技術データです。
Training Prize
動物を使わない代替法における研究者たちへのトレーニング
受賞者:African Network for Animal Welfare(ケニア)
www.anaw.org
African Network for Animal Welfare(ANAW)は、2006年に設立され、パン・アフリカの非営利団体に認定され、アフリカ中の全ての動物が人道的な扱いを受けることを促進する団体、政府、動物福祉関係者たちと共に活動することを目的としています。2009年9月、ANAWは教育関係者に動物実験代替法について学んでもらうためのカンファレンスを開催しました。
参加者はさまざまな教育機関、政府代表者、専門団体の代表者たちで、カンファレンスを通して、標準的な報告手順が踏まれていないことが原因で実験に用いられた動物の数に関するデータが不十分であったことが判明しました。地域での代替法の使用は、情報が行き届いていないために限られていました。
また、代替法の開発やトレーニングのカリキュラムの履行において極めて重要な役割を果たすべき教育関係者たちは、各教育機関で自らの採択を優先させていたようです。以来、ANAWはいくつかの基礎研究を行い、活動の内容を共有するデータを提供しています。2010年から現在まで、ANAWはナイロビ大学、バラトン大学、ケニヤッタ大学などの学生や職員に働きかけをしています。主に、ディスカッション、ディベート、ワークショップ、セミナーの形式で、代替法のデモンストレーションを行っています。
このプロジェクトの最終目標は、非動物モデルでの教育・トレーニングで用いて動物を代替することです。本賞は、代表してデニス・マカウ博士に贈られました。
受賞者:Laboratory of Mathematical Chemistry オヴァネス・メケニアン教授(ブルガリア)
www.oasis-lmc.org/
Laboratory of Mathematical Chemistry(LMC)は30年前、ブルガリアのブルガスにある大学Prof. Dr. Asen Zlatarovの中に設立されました。近年LMCは、分子モデリングの研究所の中でも世界的に大きな影響力を持つようになっています。LMCは40名近くの、化学者、生化学者、物理学者、数学者、統計学者、ソフトウェアエンジニアたちの能力を統合し、毒物学や生物学的な化学物質の特性の予測や、代謝のシミュレーションを行っています。国際協力、複数の異なる学問分野にまたがる専門知識、多様な科学的成果(数学的モデル、ソフトウェア)により、LMCは、予測のために計算化学を用いるようなグローバル化した科学界での立場を確立しています。
LMCは現在、EUで多くのプロジェクトに参加しており、化学産業や化粧品産業へのコンピューターによる化学物質のリスク評価のサービスにも携わっています。化粧品産業とは例えば、3M、BASF、P&G、ダウ・ケミカル、ロレアル、ジボダン、エクソンモービル、ユニリーバ、デュポンなどの会社です。ドイツ、フランス、デンマーク、アメリカ合衆国、カナダ、日本、オーストラリアなどの国の規制機関にも同様のことを行っています。LMCの研究活動は、アカデミック科学に基づいていますが、本質的な特徴は、科学的成果を市場に持ち込み、その利益の一部を画期的な研究に回すことにあります。
本賞は、代表してオヴァネス・メケニアン氏教授に贈られました。
Young Researcher Prize
代替法の研究を専門とする博士課程の学生
受賞者:Fluminense Federal University ローバー・バチンスキ(ブラジル)
ローバー・バチンスキ氏は生物学者であり、公衆衛生と環境の分野における修士を取得しています。
また、ブラジルのフルミネンセ連邦大学(UFF)にて科学バイオテクノロジーの大学院生向けプログラム(PPBI)における博士課程の学生でもあります。彼が代替法の研究を始めたのは、学部生でありながらも教育とトレーニングの提案をするためでした。動物実験が学部生のカリキュラムの一部になって以来、ブラジルで最初にそれに反対する法的措置を取った生徒が彼でした。1R Netというサイトや、ブラジルや他のラテンアメリカの国々でのカンファレンスや協議会を通して、学生や教授に動物実験代替法、動物倫理、反対意識についての情報を提供しています。
ローバー氏は博士課程で、三次元細胞培養のモデルに関する研究を進めています。神経毒物学、神経薬理学、科学教育で使う代替法のためのモデルです。その活動はthe Clinical Research Unit (URC/HUAP/UFF)、およびCenter for Alternatives to Animal Testing(CAAT/JHSPH/JHU)において促進されています。
さらにローバー氏はthe National Network for Alternative Methods(RENAMA)やthe Latin-Iberoamerican Network on Alternativesとも協力しています。
受賞者:University of Copenhagen ティ・アーロ・モーク(デンマーク)
ティ・アーロ・モーク氏は、デンマークのコペンハーゲン大学健康医学部公共衛生学科に属しており、博士号を取得しているリスベート・E・クヌーセン教授の研究グループの一員です。
主な研究は、環境化学物質へのヒト暴露についてです。特に重点を置いているのが妊娠中の感受期および幼少期です。このテーマは、ヒト生物学的モニタリングを用いて研究します。サンプル(尿、血液、さい帯血、髪の毛)を採取し、そのマトリックスについて、暴露のバイオマーカーや影響について分析します。研究グループは、これまでに計62の化学物質やその代謝物を測定してきました。また、EUプロジェクトDEMOCOPHESに参加しているデンマークの学校の子どもたちとその母親から採取した髪、尿、血液のサンプルに見られた影響のバイオマーカー2つを調査しました。
各化学物質のデータは、既に分析され公表されています。この賞金により、測定した全ての暴露のバイオマーカーにおける小核頻度とダイオキシン様活性に関して、また、大規模な統計分析に示される暴露源になり得るものやリスク行動に関して、データ分析することが可能になります。
受賞者:Lund University ヘンリック・ヨハンソン(スウェーデン)
ヨハンソン博士がこの賞を受賞したプロジェクトは、新たな試験方法GARDと呼ばれる化学増感剤の評価のための、ゲノムアレルゲンの迅速検出法―の開発と使用に関するものです。GARDは、ヒト免疫系の主役、いわゆる樹状細胞のin vitroモデルを用います。樹状細胞は、テストするどんな物質にも刺激され、24時間のインキュベーションの後、細胞の遺伝物質が分離します。細胞内の遺伝子群を測定すれば、免疫反応のオン・オフスイッチを知ることができ、テストした物質にアレルギーを誘発するようなリスクがあるかどうかを予測することができます。
GARDの開発の後、分社してSenzaGen ABという会社が作られました。SenzaGen ABの綱領は、感作能および化学物質とタンパク質の特性の予測のために、精密で動物を用いない方法を産業界に提供し、社会のために有益な実績をもたらすことです。
受賞者:University of Konstanz アン・クルーグ(ドイツ)
アン・クルーグ氏のプロジェクトでは、ヒトのニューロン(神経細胞)を測定します。その際、異なる種類の物質で処理を行い、神経突起成長に悪影響を及ぼす物質かどうかを評価します。悪影響を与えた物質は、いわゆるオミクス実験でさらに調査します。全ての活性遺伝子または生化学反応を分析することができます。
それゆえ、彼女のプロジェクトでは、先進的な研究技術によるハイスループットスクリーニング分析を用います。それにより、安価で、効果的で、動物を用いない毒性試験を行うことができ、推定される発達神経毒物を特定し、基本的な有毒なメカニズムを理解することができます。
2006年、コンスタンツ大学にDoerenkamp-Zbinden Chair of in-vitro Toxicology and Biomedicineが設立されました。ヨーロッパ初の動物実験代替法のみを専門とする正教授の職です。動物を用いずに神経毒性と発達毒性を評価するための、代わりとなる試験システムの開発を中心に研究をしています。
受賞者:Wageningen University and Research Centre, Division of Toxicology/RIKILT Institute of Food Safetyジョナサン・リコラス(オランダ)
Wageningen University and Research Centre(Wageningen UR)は、ワーゲニンゲン大学と多様な機関とのコラボレーションです。 その中で食品安全に関する機関であるRIKILTは、食品が安全で信頼できることを保証しています。残留物と食品などの汚染物質を検査する国の機関であることに加え、RIKILTは特定の解析領域のためのEUの機関としての働きもあります。
代替法の開発と試験の検証に加え、RIKILTはアドバイスを提供し、欧州食品安全機関(EFSA)やコーデックスの活動にも参加しています。The Division of Toxicologyは、ワーゲニンゲン大学のAgrotechnology and Food Sciences Group(AFSG)の中にあります。研究分野は食品毒物学から環境毒物学まで多岐にわたります。毒物学の複数の領域を網羅しており、動物実験代替法の開発(in vitro試験、in vitroモデリング)、食品成分と関連するリスクの評価、(ヒトにおいて、他の生物において)どの毒性化合物が健康への悪影響を誘導し得るのかというメカニズムの調査などを含みます。
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